まずは、アラフォー妻、サエコさんの場合。(仮名)
初めてアカウントを発見したのは2018年の3月。
随分と派手な印象を受けるアカウントだった。
bioを見ると、アラフォーで、既婚、夫とはセックスレスと書いてある。
ツイートの内容は、7割は「セフレ」とのセックスレポート。いわゆるセクレポってやつ。
残り3割は夫の悪口。もっとも、悪口というストレートなものではなく、世の中の男性全般に対して個人的な主観で断罪する形を取って、夫をディスる。
そして毎日のように披露される、自分の谷間や下着姿。
正直、俺には意味が分からなかった。
どうやらTwitter上で見つけたらしいセフレなのか不倫なのか分からない男もまた既婚者らしい。
その男とのセックスは、何やら中年女性の夢そのものなのか分からないが、露骨な表現で綴られる。
やれクンニはこうだった、フェラをしたら反応はこうだった、生まれて初めて中イキした、夫にはしたことがないことについて体液の臭いが漂ってくるような露骨さ。
露骨といっても、文学的に優れているわけでもない。
見たままを書くのだ。それが俺には理解不能だった。
例えばだよ、もしサバの味噌煮を食ったことをツイートする場合、どう書く?
「サバの脂で濁った汁の中でサバの身を箸でほぐし、濃厚な味付けを口の中でねっちょりと味わった」
なんて書いたら誰も読まないよ。聞いてない。
サバの味噌煮は好きだけど、ビールのつまみにしたとか、サバの味噌煮が大好きでおかずにして白米3杯食べたとか、そんなことのほうが読みやすい。
でもそのサエコさんの性描写は、見たまま書くのだ。射精の勢いだとか、クンニの長さとか。
きっしょいな~というのが俺の正直な感想であると同時に、それでさらにTwitterに自分の谷間を晒す意味はあるのか訳が分からない。
ちなみのサエコさんのフォローは100、フォロワーは1000。
確かに谷間を晒せばフォロワーの男はその都度興奮するし、褒めちぎる。
夫の悪口を書けば、フォロワーは賛同する。
気分はいいかもしれない。
いや、気分いいのか?俺が女だったら、知らない男に褒められて気分良くはならないと思う。気持ち悪い。
しばらく観察していたが、まずはこの人にアプローチしてみようと思った。
ぽっきいではないアカウントを作り、フォローをする。
フォロバはない。
そのとき、あることに気が付いた。
DMを解放してるんだ。
普通、裏垢と呼ばれる女性はDMは解放しない。フォロワーにだけ解放するが、返事はしないと公言している。
そうか、と思いつつ、そこから何度かセクレポにリプをつけてみた。
リプをするときには、いくつかの仮説を立てる。
そのツイートが意味する本当の感情はなにか?どこにあるのか?
ツイートを10回くらい読んでから、本当の感情に向けて言葉を放つ。
それを5回もしたら、リプに返事がつくようになった。
サエコさんの場合、この人は実は、男性経験が極めて少ないのではないかと仮説を立てたんだ。
ツイートから読み取れたのは、セックスにまつわるものへの偏見。
セフレとか風俗、出会い系サイトなんてものにやけに攻撃的な偏見を持っている気がした。
そのあたりを踏まえて丁寧にリプを交換していき、初めて返事をもらってから2週間後、DMをしてみた。
5分後にDMが返ってきた。
その一時間後、LINEのIDを交換したいと俺が申し出ると、返事はQRコードだった。
それで検索をするとLINEのアカウントが出てきた。
LINE上の名前が、Twitterのアカウント名と同じだった。
「本名でTwitterやってるの?」と俺が訊くと、そうですよと言った。
嘘だろ、ほんとかよ。
俺は、これは業者だったかもしれないなと脳裏をよぎった。
とりあえずLINEのパスワードを変更し、複雑なものにした。乗っ取りを防ぐためだ。
もう一台のiPhoneで試しにQRコードを読んでみると、エラーになる。俺が読み取った後ですぐにコードを更新したということか。
ふむ。手慣れているように感じる。気のせいか。
DMで会うというのは危険なんだと俺自身が啓蒙してきたにも関わらず、俺はこの状況をどう捉えたらいいのか分からなくなっていた。
まあいい。続けてみよう。できれば会ってみたい。
俺にとってこのサエコさんなる人物はレッサーパンダみたいなもんだ。会ってみたい。友達になるつもりはないが、ジャーナリズム的に興味がある。
それからLINEでのコミュニケーションを毎日続けた。
やけに返信が早い。俺も早いほうだが、同じくらい早い。
仕事は、建設会社の事務員をしているという。仙台の田舎の会社だから自由なのと言う。
でもだからと言って、俺は見ず知らずの男だよ。
しかもTwitterのアカウントはアイコンも設定してないし、IDもデフォルトのまま。
そんな男とこんな風な密な連絡を取るもん?
まあいい。いちいち考えるのはやめた。
「今度、仙台行くのでお茶でもしませんか?」俺は突然そう誘った。
LINEを交換して3日目のこと。
「もちろんです、私がそちらに行きましょうか?」と返事が来た。
え、来るの?本気で?
意味が分からないよ。俺が殺人犯だったら殺されるんじゃないのこの人。
「仙台行きますよ、駅前でお茶しましょう」俺はそう言った。
会うことにしたのは、その2日後の夜。サエコさんの仕事帰りに待ち合わせることにした。
それにしても早すぎないか、この人はこうやって会いまくる人なのか、それともこのぽっきい様の優秀なスキルのなせる技か。
正直、恐怖感があった。やべーことしてんのか、俺。
まあ、考えることはやめよう。
当日、待ち合わせは仙台駅だった。
俺は車で仙台駅まで向かった。駅から少し離れたところに車を停め、駅の待ち合わせの名所であるステンドグラスの前に来た。
1月のことだったので、寒い。
俺は5分前に着いて、着いたよLINEした。すると、もういますよと返事。
「赤いスカートにブラウンのブーツを履いてます」
あたりを見渡すと、いた。
あれ?と思った。
地味。。。。。じゃないか?
アラフォーだから想像はついていたが、想像よりもずっとおばさん臭い。
おばさん臭い原因はなんだろう。
そうだ、髪はたぶん染めているが艶がない。ぽっちゃり体型のようだが、それを気にしているのかコートがオーバーサイズ過ぎる。若い子が着たらオーバーサイズも可愛いが、どうも全体のコーデのバランスが悪い。
赤いスカートと、ロングブーツがちぐはぐさに拍車をかけている。
年齢は39歳のはずなんだが、40代後半に見える。
たしかに、Twitterで頻繁に上げている写真は本人だろう。でもあんなにアグレッシブに下着姿や谷間を出し、露骨なツイートをする人物に・・・見えない?見える?うーん。
「サエコさん」俺はいつものように満面の笑みで近づいた。「お仕事お疲れさま!来てくれてありがとう!」
俺は元気いっぱいにそうやって登場した。
すると、サエコさんは目を伏せがちで、「あ、ども」と小さな声で言った。
普段はさ、初対面の人にそうやって初めて挨拶すると、わ~とか笑顔で喜んでくれるもんなんだが。
まあ、ぽっきいというブランドがないからな。でも、「あ、ども」って返事は、夜の世界のプロの女ではいないなー、と思った。
そのあたりの冴えないおばさんって感じだ。
Twitterでの印象と、こうして会った印象が違う。
俺が期待外れだったのか。
こういうおばさんっぽいのは、イケメンが好きだからな。
仙台駅から少しあるいてアーケードの通りにあるチェーンのカフェに入った。
仙台のカフェは結構空いている。
奥の方のソファの席に座った。
10分くらい歩きながら話をしたおかげか、サエコさんは緊張が解けてきたようで、笑顔が出てきた。
そこから約一時間、この裏垢女性のことについて、インタビューを試みた。
つづく~