ミッキーマウスと胸に書かれたピンク色のスウェットを着た、ロッドスチュワートみたいな髪型のワカナさん(仮名)、40歳。
Twitterでひねくれたセックス観を晒すアラフォー人妻。
この人と会ったお話の続きを書きます。
9月初めの残暑の厳しい上野公園でのこと。
ワカナさんは、俺が困惑してしまうほど外見がおばさんだった。
熟女って言われるとどんな人を想像する?
こんな経験豊富な俺でも、そりゃつい色っぺー女性を想像するよ。
そうだな、40歳と聞いたら、細いのにおっぱいが大きくて、髪が長くて、ノースリーブのワンピースを着ていて、夫から買ってもらったお高そうな時計をしていて、後ろ姿が若くはないけどお色気むんむんの丸いお尻をしていて、うー触りてえ・・・とかそんな大人の女を想像をするわけ。
若い子もいいけど、大人の女もいいもんだね、みたいなことを思う自分も想像する。
そんな熟女がTwitterでエロい内面をぶちまけてるんだろうかって想像するの、俺だって。
性欲が薄い俺でもそんな想像するんだから、Twitterのおっさん達はもっとそうだろう。
この上野の雑な人混みの中での出会いだから、ギャップ萌えというか、こんな小便臭い場所でこんな美熟女に出会ってしまって興奮しますどうしよう、鶯谷も近くにあります、とか想像するわけ。
でも、目の前にいるのはミッキーマウスを着たロッドスチュワート。
Twitterっていうのは140文字の世界で、どうにでも世界観を構築できるもんなんだなと感慨にふけっていた。
ワカナ:「え~、何難しい顔してんの~?わたしでごめんね~?」
俺はドキッとしてすぐに否定した。
ぽっきい:「ごめんねじゃないよ、ありがとうね、会ってくれて」
ワカナさんは、少し勘がいいというか、頭のいい人かもしれない。
そうだな、見た目で人を判断しちゃいけません。裏垢としてはがっかり極まりないが、俺はセックスのために来てるわけじゃない。このアカウントの人がどんな人なのかを知るために来てるんだ。そうだった。
気を取り直してインタビューを試みようと思った。
少し歩いて、近くにあるコーヒーショップに入った。いつものことだが、店内は込み合っていた。
ワ:「わたし、コーヒーを買ってくるからね」
ワカナさんはそう言う。
ぽ:「いやいや、俺が買うから座っててよ」
俺がそう言っても、ワカナさんは制止してコーヒーを買いに行った。自分のバッグを俺に渡し、財布だけを持ってカウンターに行った。初対面の俺に荷物を預けるあけっぴろげさに少し驚いた。
見た目に似合わず、この人は親し気にしてくれるし、母親みたいなおせっかいを焼いてくれる人なんだなと思った。
「おまたせ~」と言いながら、コーヒーを二つと、チーズケーキを持ってきた。
ぽ:「ケーキまで!ごめんね」
ワ:「そういう時はごめんねじゃなくて、ありがとうって言うのよ。謝ってどうするの?」
そう言ってワカナさんは笑った。
それにしてもこの人はメールもそうだったし、口調にも笑顔がある。声のトーンも高くて、人の心にぐっと入ってくる感触を持ってる。飲み屋のママみたいだけどw
たとえばこれがド田舎だとすると、この手の妙な外見のおばさんと会ってしまったら、話し方もゴリラだったりする。ろくに会話もできず笑顔を作る習慣もなく気配りもできないのが普通だ。
松戸が都会か田舎かということではなく、少なくとも北海道や青森なんかではこんな人は珍しいと思う。
ワ:「わざわざ来てくれてありがとう。いきなりだったけど、誘ってくれて嬉しかったよ。」
言葉もシンプルでストレートで、まっすぐだなと感心した。
Twitterではあんなにひねくれたことばかり言ってるのに。会う前はきっと双極性障害だと思い込んでいたし、内面がややこしくこじれてしまった自信のない中年女性だろうと思っていたんだけど。
ぽ:「ツイッターで書いてることと、イメージが違うんだね。」
ワ:「えー、そう?わたしは違わないつもり」
ぽ:「だって、バナナみたいなうんこを放置するとか書いてるじゃん。」
ワ:「あんなのウソに決まってるじゃない。」
ぽ:「やはり。。。じゃあ、セックスの話は?浮気相手というかセフレというかいるんだろ?」
あ、と思った。ついセフレと言う言葉を普通に発してしまった。隣の席に座っている大学生風の女性二人組が、少し反応したのが分かった。
そうだ、こういう公の場所では俺みたいな人間は言葉に気をつけなきゃならないんだ。
ワ:「それはね、いるよ。セフレ。」
ぽ:「それじゃ、夫にレイプされたというのは?」
隣の大学生を気にしながら小声で話した。
ワ:「それは半分本当。したことなかったのに男友達だった旦那に無理やり。でも復讐とかじゃないよ。旦那が性欲に負けたと言って何回も謝ってるうちに私も好きになって、それで結婚しただけ。旦那は普通の会社員でいい人よ。」
ぽ:「ずいぶんと迫力あるツイートだから信じちゃったよ。」
ワ:「でもね、わたし、男を信じてないの。」
ぽ:「ああ、それは伝わってきたよ。」
ワ:「セックスも男も嫌いなんだと思う。Twitterで裏垢とか言ってるおじさん達も嫌い。気持ち悪い。」
ぽ:「・・・なんかごめん(笑)でも、なんで俺と会ってくれたの?」
ワカナさんは含み笑いをして、コーヒーをすすった。
ワ:「あなたが他の男と明らかに違って、頭がいいのか悪いのか分からなかったから。裏垢おじさんってバカばっかりでしょ?バカを演じてるようにも見えないし。賢そうにしているけどバカもたくさんいるし。あなたのことはまだよく知らないけど、たぶんバカじゃないと思うのよね。それで私もあなたに興味を持ってここに来たの。」
ぽ:「いや、バカだよw でも、来てくれてありがとう。」
ふーんと思った。
軽く言ったけど、男嫌いというのはどうやら本当のことだね。男嫌いだけどセフレはいるし、男に攻撃的な態度をとるわけでもない。でも男を信じてはいない。むしろバカにしている。
何についてバカにしているのか、信じなくなったきっかけがあるのか、きっとここを掘り下げていけば何かヒントがあるかもね。
ワ:「あなたは話しやすいし、来てよかったよ。」
ぽ:「それはよかった。」
ワ:「会った時から私の胸ばかり見ているけど、わたし貧乳だよ?エッチね。」
いや・・・そのミッキーマウスっていう文字が気になってんだよw
それはどうでもいいが、考えてみるとなるほどなと思った。男嫌いか。確かに、男性についてやけに攻撃的なツイートを続けている。しかもセックスという男の多くが興味があって仕方ないことについて題材にしながら、男のバカさ加減をネタにしてツイートする。
俺の仮説は半分間違ってたんだろう。
俺は、この人は他人、特に男に対して失望しているんだと想定していた。本当の自分をさらけ出した時に誰かに嫌われ、それに失望したことがあるんだと。
自分を軽く扱う男に対して憤り、男が傷つく行動や言動をわざとする。そんな人だと思い込んでいた。
でも実際は少し違っていて、男嫌いだってこと。
仮説と似ているようで全然違う。俺の仮説は、期待を裏切られた末の失望。でも男嫌いっていうのは失望のあらわれじゃない。
男嫌いと失望とは違う。
男嫌いっていうのは、性別として憎悪の対象なんだよな。フェミニズムと男嫌いが本来は全く違うように。同じ意味になってる女性はたくさんいるけどね。
ワカナさんが抱えるのは、男嫌い。
男嫌いの女性の中には、この人のようにセックスに走る人がいる。
男を心底バカにしながらセックスをする。
男はこれに気づかない。
俺はふと思ったんだよね。
ぽ:「ワカナさん。もしかして、その服、わざとでしょ。」
ミッキーマウスにぼさぼさの髪。
ワ:「・・・さすが。」
やっぱり。
この手の人は俺も初めてじゃない。
男に求められることを全て裏切るスタイルで対応するんだよ。
写真を求められると、わざと不細工に写して送ったりね。
こうして見知らぬ男と会う時も、わざとがっかりさせるような服装を選ぶ。
その通り、俺もがっかりしたもんな。
ワ:「いこうか?」
ワカナさんは、鶯谷のラブホテルまで行こうかという意味のことを言った。
ぽ:「ここからだと、歩いて15分くらいかな。いこうか。」
もちろん俺はセックスするつもりはない。
たぶんこの人も俺がそう思ってることも知っていて、自分もセックスするつもりはないだろう。
でもここは、従った方がいい。
公園からJR鶯谷駅の南口の方まで歩き、陸橋を渡って階段を降り、立ち飲み屋を左に曲がってラブホテル街に行った。
昼間でもこのあたりは人通りが多い。
デリヘル、不倫、韓国人。
適当なホテルに入ると、俺は試しにお願いしてみた。
ぽ:「服、脱いでみてよ」
ワ:「いきなりね」
笑いながら脱ぐと、やっぱりと思った。
スレンダーだけど肉付きのいい身体。貧乳どころか美乳。高そうな下着。全身、お金をかけてケアしているのがよく伝わってくる。
ミッキーマウスを着て歩くような人じゃない。
やはり、俺を試していたんだろう。
ぽ:「わーお♡」
俺の精一杯のリアクション(笑)
俺もセンスがないね。
途中のコンビニで買ってきた飲み物とお菓子をつまみながら、ワカナさんは下着姿のままずっと話をしていた。
22歳までソープ嬢をしていたことも知った。
父親が女を作って母親を捨てて家を出ていったことも知った。
セフレと仲良くなるとわざと捨てることも知った。
そして、俺の過去はぐじゃぐじゃだってことも見抜かれていた。
おみそれしました。
もちろんセックスしないまま、5時間もそこで話をして過ごした。
セックスするか聞かれたが、ワカナさんとは長く付き合った方がいいと思い、しなかった。
それが失礼に当たる女性もいるが、結果的にそれでよかった。
2019年9月現在も、ワカナさんとはやりとりをしている。
今年の年始にワカナさんと会った時はロッドスチュワートでもミッキーマウスでもなかった。
明らかに高そうなコートとワンピースの、男が求めているような美熟女そのものだった。髪も黒く染めて整ったショートヘアになっていた。背が小さいのが逆に可愛らしさを感じさせるほど。
女性って印象を変えられるものだね。
今、彼女のTwitterアカウントはフォロワー2万人。
相変わらず、過激なことばかり言う。
男嫌いは健在のようだ。
しかしLINEでのやりとりはとても愛情深く、俺の体調なんかも気にかけたりお中元まで送ってくれたりする。
Twitterではこの人は裏垢おじさんから「業者!」とか「ネカマ!」と誹謗されている。
その光景に、滑稽を通り越した男の悲哀すら感じて切なくなる。