【岐阜市在住・42歳 Hさん場合】
「あなた、ぽっきいよね」
Hはそう静かに言った。
どこでバレたのだろう。ヘリコプターで河原に降りるセフレと会っているとかキチガイじみたことを言うHだが、実は俺がぽっきいだということを知っていたということか。
Hは俺の目の前で服を脱ぎだした。レザージャケットを床に脱ぎ捨て、白いワンピースをまるで脱皮するようにスルっと脱いだ。細身で胸の大きな身体。ふと・・・その肌を見て思った。
42歳ではない。もっと若い。岐阜駅で車に乗り込んでから顔をまじまじと見ていないので気づかなかったが、顔も肌質も相当若い。30歳くらいという感じだろう。
「Hさん、あなた42歳じゃないね?」
「ぽっきいさん、私のこと忘れたの?」
Hが下着もすべて脱ぎ、バスルームに連れて行こうとする。
忘れたのと言われても、忘れたことは一度もない。この10年間で岐阜で会った女性は全員覚えているはずだが・・・
しかし、Hの背中、肩の後ろの部分に刺青があるのを発見した。小さな紫色の花の刺青。
「覚えているでしょ、そのタトゥー」
昔、似た刺青を見たことがあるが、この目の前の女性のことは知らない。そんなことを思いながらもバスルームで二人でシャワーを浴びた。
そしてまあ、流れで始めてしまったんだが、本来であれば取材のはずがどうしたものかと。きちんと正しいやり方を覚えたのが分かるセックスだった。
奇抜なことは何もないが、基本的な流れを誰かに教えられたというか、プロとはまた違う正統派のセックスだった。
「10年ぶりでも変わってないんだね、ぽっきいさん」
Hが言う。
「ヘリコプターを待たせているから帰らないとね」
俺が試しに言う。
「もういいよ、その話w」
Hが笑う。
「質問なんだが、どうして俺はぽっきいだと分かった?」
「私の姉のこと覚えていない?レミと言うの」
ああ、覚えている。昔のスタッフでホストにハマり、違法薬物を覚えて刑務所に入った子だ。ダルクに行って、また薬物でおかしくなって、とかいろいろあって連絡が途絶えてしまった。
その妹だということか。レミは今生きていれば34歳くらい。その妹だからやはり30歳前後だろう。確かに、北海道でこの妹と会ったことがある。刺青もそういえば確かに。で、セックスしたこともあったのかもしれない。
岐阜だと思い込んでいたから思い出せなかったんだ。
でもレミは俺の北海道時代のスタッフだし、北見の生まれだと聞いていた。なぜ岐阜なのか。
訊くと、住んでいるんは名古屋だと言う。
で、仕事は?
そう言いかけて止めた。察しがついてきた。
「俺がぽっきいだと知ったのは偶然だろ?」
「さすがです。そう。Twitterで知り合った男がぽっきいだと知っただけなの」
「どの段階で気づいた?」
「写真を送ってもらったときだよ」
さっき駐車場の隣にいたアルファード。あれ、お友達だろ?そう言いかけて、また止めた。もう詳しく聞くのはやめよう。
Twitterとは怖いところだ。淫乱イキリだと思っていたが、実はイキリキャラだった。違う目的がある人達だったということだ。
「あのさ、その、長く続きはしないだろう。もし、気が向いたら俺を訪ねて来てよ」
「そうね。たぶん行くと思う」
「歓迎するよ。一緒に働こうよ。で、レミは今どうしてるの」
「行方不明。住民票をたどっても途切れてた。解体になったアパートにまだ住所がある」
そうか・・・この世界にありがちなことだ。もっとレミのことを見ていればよかった。
「じゃあ、ヘリコプターまで送ってよ」
そう行って駐車場に戻ると、隣にあったアルファードはいなくなっていた。だよな、と。
岐阜駅まで送ってもらい、ロータリーで降りた。
「またすぐ連絡するね、ぽっきいさん」
そう言い残して、Hは去っていった。
そのあとで元セフレRに連絡をした。
Rはとても喜んでくれて、すでに岐阜駅の駐車場にいるよと言った。Rはすぐにホテルに行きたいと言い、向かったのはやはり線路わきにある大きなラブホテルだった。
さっきまでHといたホテルだ。
それは長く続かないぞと思いながら、Rと部屋に入った。Hとハッスルした後で大丈夫かなと思ったけど、Rが燃えているのを見るのはとても気持ちがよかった。
ということで、アラフォー人妻はアラフォーではなく、岐阜在住でもなく、Twitterのアカウントの中の人はちょっとアレな感じの昔の友人だったという顛末です。
ぽっきいでなければ、今頃大変なことになっていたのは間違いないわけでして。
【編集からひとこと】
※登場人物の許可を得て④を公開しました。後日談ですが姉のレミはその後連絡がとれて、今はぽっきい事務所にいます。Hについては少し複雑ですが、掲載の許可のみ頂いています。